庭さきの森の春
庭さきの森の春 若山牧水
濱へ出る漁師たちの徑に沿うたわたしの庭の垣根は、もと此處が桃畑であつた當時に用ゐられてゐた儘(まま)のを使つてゐる。杭も朽ち横に渡した竹も大方は朽ちはてゝゐるのであるが、其處に生えた篠竹やその間に匐(は)うてゐる蔓草のために辛うじて倒壞を免れてゐる。蔓草も幾種類か匐うてゐる樣であるが、通蔓草(あけび)が最も多い。そしていまその若葉と、若葉の間に垂れて咲いてゐる花とが、まことに美しい。花は初め袋なりにつぼんでゐるが、やがて小さく開く。色は淡い紫である。 門を出てこの垣根に沿ひ十間も行くと、徑は森の間に入る。森の木深いところにもこの通蔓草は茂つてゐる。此處は樹木の背が高いだけ、あけびも高く伸び上つて、とりどりの木の梢からその蔓の先を垂らしてゐる。 森の木はお... more > (5 pages)
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